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詩人・大岡信の美術評は、飛び抜けていると思う。柚木紗弥郎の作品…

物の命を美に転じる

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詩人・大岡信の美術評は、飛び抜けていると思う。

柚木紗弥郎の作品集の序文で、大岡信のことばに出会って以来、その美しいフレーズのひとつひとつが、頭から離れない。

どちらかというと、詩歌などの韻文の類いは苦手で、できるだけ避けて通ってきた口だが、現代日本を代表する詩人が紡ぐ、作り手たちの物語に、今はすっかり魅了されている。

大岡信のテキストの中に、「物の命を美に転じる」というエッセイ集がある。

志村ふくみや、芹沢銈介について語られた、その中に、「宗廣力三の人と染織」という項を見つけた。

冒頭は、こうだ。

「透明度があって堅牢であること。
柔らかくて腰が強いこと。
渋くて深みがあること。
暖かみがあること。」

この、 宗廣力三の織りなす、織物の特徴が、すなわち、その人そのものだ、と言う。
その人が生み出す織物が、その人自身を創り、そして、その創られた人が、また織物を織る。
ものを創ることの醍醐味が、そこにはある、と。

私が言葉の限りを尽くしても、テキストの素晴らしさに、叶うはずもない。いつか、少しは彼の言わんとしていることを、掴める日が来るだろうか。

藍で丸紋の絣に染められた、宗廣力三作品の額装の、「みずみずしい色気」を含んだ青の記憶を、大岡信のことばと共に、深く深く刻み込んでおこうと思う。

;人生の黄金時間

人生の黄金時間」より
大岡 信 著
角川文庫
2001年

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